梅友スペシャル鼎談

本日は、近畿大学通信教育部の卒業生であり、現在、弁護士として活躍されている大久保さんと高橋さんをお迎えして、通信制大学での学びと司法試験をテーマに鼎談を行いました。

大久保 勇輝
弁護士(大久保総合法律事務所代表弁護士)
2022年10月~ 梅友会(通信教育部卒業生団体)会長
1984年兵庫県生まれ。兵庫県の工業高校を卒業後、海上自衛隊に入隊。2003年に除隊して、法学部(通信教育課程)に入学。ニート生活を経て2013年3月に卒業。卒業後は大阪大学法科大学院へ進み、2015年修了。同年9月に司法試験合格。現在は大久保総合法律事務所代表として、多数の企業法務、一般民事事件、刑事事件などを取り扱い、解決に導いている。

高橋 和央
弁護士(諏訪・髙橋法律事務所所属)
1968年新潟県生まれ。関東地方の高校に進学後、中退。特修生(大学入学資格認定コース)を経て、法学部(通信教育課程)に入学。1992年、法学部(通信教育課程)を卒業。民間企業での勤務、自営業などを経て、2004年に司法試験に合格。現在は諏訪・髙橋法律事務所に所属し、「法律上はこうだから」という説明だけで終わるのではなく、相談者、依頼者にとっての本当の問題を解決することを目指している。


世耕 石弘
近畿大学通信教育部長
1969年奈良県生まれ。大学を卒業後、1992年近畿日本鉄道株式会社に入社。以降、ホテル事業、海外派遣、広報担当を経て、2007年に近畿大学に奉職。入試広報課長、入学センター事務長、広報部長、総務部長、経営戦略本部長を歴任。2018年から通信教育部長となり、現在に至る。


 

 

世耕部長(以下、世耕):本日は、近畿大学通信教育部の卒業生であり、現在弁護士として活躍されている大久保勇輝さんと高橋和央さんをお迎えし、通信制大学での学びと弁護士としてのキャリアをテーマに鼎談を行います。この鼎談を通じて、通信制教育の利点や可能性について再認識することを目的としています。

大久保弁護士と高橋弁護士の通信制大学選択理由

世耕:まずは、お二人が通信制大学を選んだ理由についてお聞かせください。

大久保弁護士(以下、大久保):18歳で海上自衛隊に入隊しました。高校卒業当時は、学力的にも経済的にも大学に入るという考えはありませんでした。19歳で自衛隊を除隊し大学に入学しました。弁護士になることはすでに決めていましたが、司法試験を受けるのに必ずしも入試を受けて進学する必要はないと判断し、経済的理由から通信制大学を選びました。



自衛隊時代の大久保弁護士

高橋弁護士(以下、高橋):私は高校を中退して大学入学資格がなかったため、特修生大学入学資格認定コースを通じて大学に入りました。司法試験と大学入試は直結しないと考えていました。大学入試にかける時間は不要だと思い、20歳で入試のない通信制大学に進学しました。


中学生時代の高橋弁護士
あだ名は「特攻ちゃん」

近畿大学の選択理由

世耕:数ある通信制大学の中で近畿大学を選んだ理由は何ですか?

大久保:実家が神戸にあったため、距離的に利便性が高く、関西で有名な大学であったことから近畿大学を選びました。法学部もあり、他に選択の余地はありませんでした。

高橋:私は新潟県長岡市の出身で、当時インターネットもなく、新聞の通信制大学が特集された連合広告で中卒でも入学できる「特修生大学入学資格認定コース」の存在を知り、即決しました。上越新幹線が通ったばかりの頃でした。

世耕:入学当時から司法試験を意識していたのですか?

高橋:はい。漠然とですが考えていました。

弁護士を目指したきっかけとタイミング

世耕:では弁護士を目指したきっかけやタイミングについて教えてください。

高橋:18歳の時、交通事故を起こし、相手が怖い人の息子だったことから保険会社に示談をお願いしましたが、「相手が怖いので、過失割合はこれくらいでいい?」と言われ不信感を覚えました。この理不尽と戦うなら「弁護士」だと思いました。結局、その保険会社の担当者は引っ越ししてしまいましたけど笑。これがきっかけで弁護士を目指すことになりました。その後、思いがけず、短答式試験に一発合格してしまったことで、その気になってしまい、本格的に勉強を始めました。受かると思っていなかったので合格発表もみていなかったんですが、論文式試験の受験票が自宅に届いて初めて合格したことを知りました。論文式の対策は全くしていなかったので落ちましたけど。本当にまぐれです。

大久保:私の場合は、自衛隊入隊後に階級制度について知ったんです。高卒では30年在職しても越えられない壁(到達できない階級)を、防衛大学校出身者は入隊と同時に与えられることを知り、勉強しなければならないと思いました。どうせ目指すなら最高位の資格、「弁護士」を目指すことにしました。弁護士資格がどれだけ難関な資格なのか、知らなかったからこそ弁護士を目指すことができました笑

世耕:司法試験の合格率は東大法学部でも5~6割です。常に隣に友人がいて、「うちの法学部から弁護士は無理だよね」的な会話が交わされる通学課程に入っていたら諦めてしまっていたかもしれませんね。

高橋:きっとすぐに諦めていたと思います。私の場合は、そのような情報がなかったからこそ、いわゆる常識に囚われることなく、諦めず弁護士を目指すことができました。

大久保:私も同感です。

世耕:本来、通信制大学って仲間から情報を得られないことがデメリットに感じられやすいですが、今回は周りからの情報がないことがメリットに働いたということですね。

近畿大学通信教育部での学び

世耕:次に近畿大学通信教育部で学んだことがどのように役に立ったか教えてください。

高橋:厳しい先生に出会えたことが今の仕事にも活かされています。1年生の時に当時、法学演習で教鞭をとられていた山野正二先生に「教えてもらおうなんて思うな、自分で調べるのが大切だ」と言われました。自分で動く、調べなければ何も教えてもらえないことを学びました。今の司法修習生をみていると、教えてもらえることが当たり前になっているように感じます。それこそ、「盗んでやろう」という気概が感じられない。すぐに答えを求めてくるんです。「自分で考えないと成長できないよ」とアドバイスするんですが「答えがあるのに考えるのは時間の無駄」と言われてしまいました。法学部、法科大学院を卒業し、最短で弁護士になれた故に「効率」ばかりを求めてしまっている気がします。これが自分で考えることの重要性を学ぶきっかけとなりました。


大久保:通信教育部に入学したら、テキストが一気に送られてきました。何から始めたらいいのかさえ全く分からなくて、学習方法を知るために「学習の友」を読むところからスタートしました。そこで「自分で調べてやらないといけない」姿勢が身についたと思います。今の若手弁護士からも「習っていないからわからない」と言われることがあります。弁護士の仕事は自ら調べて弁護することが大切です。受動的に授業を聞くスタイルに慣れてしまった通学生よりも、自ら学ばないと学習が進まない通信制が合っていたのかもしれません。

世耕:通学制の大学では教室で授業を聞きますから、基本的に受身の姿勢でも学ぶことができます。でも通信制は違いますもんね。もしお二人とも通学に通われていたら今の姿はないのかもしれないですね。

高橋:そう思います。自分で考えることはしなかったように思います。

大久保:自分もそう思います。授業聞く、受身姿勢のまま卒業を迎えていたと思います。

世耕:通信制大学がハンデではなく有利に働いたってことですね。

弁護士としての苦労

世耕:ありがとうございます。次に、弁護士になって苦労したことについて教えてください。

高橋:もっと時間をかけて取り組むことができたら…と思うことが多いです。時間をかけてどう対応すべきかを考えることができれば…。「本当にこの処理方法でよかったのか」と疑問に感じています。今の3倍くらい時間がほしいです。


世耕:経験と共にかかる時間を短くできるってことはないのでしょうか?

高橋:なんとなくできる」と思って処理してしまうことが多いです。後になって時間をかけて考えてみると本当にこの対応で良かったのかと考え始めると、疑問は深まるばかりです。

世耕:弁護士になったから悠々自適な生活を手に入れたとはならなかった?

高橋:ならなかったですね苦笑

大久保:私も、弁護士の仕事は、時間をかければかけるほど充実した回答が出せると思っています。でも思い通りに行かないことが多いです。

世耕:弁護士の仕事って、勝ち負けがはっきり出る仕事じゃないですか。姉が医者、妹が弁護士の姉妹がどちらの仕事が感謝されやすいか討論した結果、「病気は治せるケースが多い」から医者の勝ちって結論づけたそうです。

高橋:実際のところ、裁判は係争途中で勝つか負けるかが大体わかります。奇跡的な逆転勝訴なんて言うものは滅多にありません。負けても負けても「この制度はおかしい」と抗い続けることが辛いです。例えば、「子供の連れ去り」事件です。離婚して親権が取れなかった親が、事情があって子どもを連れ出すことがあります。最近になってようやく共同親権が認められるようになりましたが、依然としてその行為は違法と見なされてしまいます。

大久保:ある意味、依頼者を説得するのが弁護士の仕事だったりしますよね。

世耕:勝っても負けても恨まれることがあるんですね。

大久保:医者は治療を施して「元」の状態に戻せば勝ちじゃないですか。我々の仕事はその「元」がよくわからないケースが多いんです。

世耕:被害者側からは「なぜ助けるのか」「遺族の気持ちはどうなるのか」といった声が上がることもあるのでしょうか?

大久保:被疑者弁護は「必要悪」と理解しています。

高橋:弁護人がつかないと「無罪」だけでなく「有罪」にもできないため、弁護は必要です。私の場合、私が弁護した被告人の母親からも誹謗中傷を受けたこともあります苦笑

弁護士はモテる職業?

世耕:読者の方々が気になる質問をぶつけたいと思います。弁護士ってモテますか?司法試験合格したら昔の彼女から連絡がきたみたいなエピソードがあれば教えてください。

大久保:笑。確かに合コンにはたくさん呼ばれるようになりましたね。

高橋:女性にモテるというのはあんまりなかったですが、仕事がら有名な方と会える機会が増えました。

世耕:通信制大学での学びが、お二人の弁護士としてのキャリア形成に大きく影響したことが伺えました。自ら考え、自ら調べる姿勢が、現在の弁護士としての活動に繋がっていることを改めて確認することができました。お二人の成功は、通信制大学の独自の環境とその活用に支えられています。この鼎談を通じて、通信制教育の可能性とその利点を再認識することができました。本日は貴重なお話をありがとうございました。



通信教育部で学ぶみなさんへ

大久保弁護士からのメッセージ


皆様が通信教育部に入られた目的、目標はおそらくは様々だろうと思います。ですが、自ら選択して入学された以上、何かしら明確な目的をお持ちだろうと思います。
近畿大学通信教育部は、「学びたいものに学ばせたい」という世耕弘一先生の理念に基づいて設置された非常に素晴らしい教育機関です。私が学ぶことができたのもこの様な場所があったからに他なりません。
他方で、通信教育での学習は孤独との闘いでもありますので、明確な目的意識がなくてはおよそ卒業までたどり着くことは困難です。また、目的意識があっても、一人で学習するとなると予想以上に難しいものだと思います。
近畿大学通信教育部には学習会や梅友会などの組織もあり、学生交流会なども実施されています。こういった場に積極的にご参加いただき、同じ目的・目標をもった仲間を見つけ、ともに切磋琢磨して学習をしていただく、ということは大変有意義かと思います。そして、是非とも初心を貫いてご卒業いただき今度は梅友会の仲間として、後世の学びたい人たちの一助になれるよう一緒に活動できる日を楽しみにしております。
皆様の挑戦がうまく行くことを心からお祈りしております。

高橋弁護士からのメッセージ


最近は、通信制の高校がとても増えているように思います。私が高校生の頃は、通信制の高校はそんなにありませんでしたし、物凄くネガティブな印象でした。高校から通信制の高校で自分のやりたいことに取り組み、その延長として、通信制の大学に進学するというルートも魅力的だと思います。通信教育だから通学より不利だと考えるのは間違いで、時間を工夫して自由にスケジュールを組んで勉強できるというメリットを最大限生かして、目標を達成して欲しいと思います。資格試験を目指す方も、通信制大学であれば、資格試験の受験前は、その受験勉強に集中し、資格試験の受験が終わったら大学の勉強をするというスケジュールも組めます。通学するより圧倒的に有利だと思いますので、皆さんの目標に向かって頑張って欲しいです。